2014年1月24日金曜日

いとしのビリー: ラジオ深夜便でも紹介した、私のシェイクスピア歴

ビリー

名前 ウィリアム
苗字 シェイクスピア
職業 詩人 劇作家 俳優 
嗜好    女たらし ゲイ

William Shakespeare

初めは食わず嫌いでした。
仰々しくて、古臭くてカビの生えた、「演劇」とかいう時代遅れの、西欧かぶれの知ったかぶりオタクの巣窟じゃん、と、よく知りもせず、先入観を持っていたのです。

大学時代は教養課程にシェイクスピアがいくつもあって、単位がとりやすそうなのをひとつ選んだら、
「マクロコスモスとミクロコスモスがどうとかこうとか、ハムレットではそれがどうとかこうとか、ルネサンスの精神がどうとかこうとか」
という程度はわかりましたが・・・カタカナの単語が耳に入ってきただけなんですね。

ロンドン大学の演劇科に留学しても、シェイクスピアの本家イギリスにありながら、フランスやドイツの大陸的実験・前衛劇に夢中で、シェイクスピアなんか見向きもしません、
でした。

ところが、どう間違ったか、帰国した私を拾ってくださったのが、シェイクスピアの翻訳劇で名高い劇団昴。
当時、昴ではちょうどシェイクスピアを上演するというので、私は好きでもないのに特別見学を「許され」、ほとんど無理矢理、ここで仕事したいなら見ときなさい的に稽古に座ることになったのです。

主役は、イギリスの名優を見慣れた私の眼にさえ、「うまいなー」と思わせる、とても魅力的な俳優で、彼の一挙手一投足が、すべて、オッケーに感じられました。

しかし、演出家は不満げに、いろいろ文句を出すのです。
もちろん、彼にだけじゃなくて、他の俳優にもですが、いったい、何をそんなに稽古する必要があるのか、ちっともわかりませんでした。

台詞、言えてんじゃん。
動き、わかってんじゃん。
何度練習しても新鮮味がなくなるだけじゃん。(← これこそ舞台人にとっての最大の敵。映像なら、良いカットだけを使うことができるし、ドッキリでリアルを狙うこともできる。繰り返しても新鮮であること、これが最難関なのです、と今、2014年になって、わかります)

そんなとき、文化庁がお金を出してくださるというので、再度イギリスへ渡ることになりました。
今度は王立演劇学校。

授業が始まるまでに時間があったので、イギリスの演出家組合Directors' Guild が主催する2週間の国際演出家ワークショップに参加しました。

泣く子も黙るような著名な演出家が、演劇界だけでなく、オペラやマイムの方面からもやってきて、舞台芸術として成立するあらゆる芸術に関して、公演や実技訓練をしてくれる。

中世のまま時が止まったかのような、初秋のケンブリッジ大学に皆で泊り込み。

演出法、演出家のマインドと義務、演劇芸術の社会的意義と義務、台本読解法、俳優訓練指導法、演技術、発声、ボディワーク、即興、リーダーシップ、美術や音楽とのコラボレーション、オペラ、実験、前衛・・・

夜は暖炉を囲んで、さらに演劇談。

なかに、
「シェイクスピアの喋り方『ハムレット』を使って。講師:ジョン・バートン」
というのがあり、劇団昴でのシェイクスピアのおかげで大きな疑問を抱えるようになっていた私は、それを受講してみることにしました。
というのは、表向きの発言で、本当は、イギリスで通用する日本人俳優になってやる、からには、シェイクスピア喋れないと。
というのが本音。
喋りたくて受講したのです。

行ってみると講師は大変なおじいちゃん、隣にいるのは、インド人らしき若い女性。

えーっと、『ハムレット』だよね、男だよね、イギリスの戯曲だよね。

おじいちゃん曰く、
「シェイクスピアは誰でも喋れる。あたしゃ、今一番シェイクスピアを喋れると思ってる人に、今日来てもらっただけじゃ。」

そして、ハムレットの長い独白(独り言)を使って、句読点や息継ぎで、どのように台詞が組み立てられていくかを、彼女に様々なやり方で台詞を喋らせながら、あざやかに解説し始めたのでした。

眼からウロコどころか、全身脱皮ですよ。

あとで知ったのだが、このおじいちゃん、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーきっての大演出家なのですね。

彼の解説の流暢で的確なことったら。
そして、このインド人女性俳優。
あれほど難解だと思われているハムレットの独白の数々が、この人の口から出てくると、こんがらがった糸が解けるように、すらりと頭に入ってくる。

考えるシェイクスピアではなくて、聞いて楽しむシェイクスピア。

リズム、
単語の繰り返しによる音の遊び、
フレーズが波のようにイメージを運んでくる流れ、
言葉によって次々に開く思考回路のウィンドウ・・・

まるで映画のような立体迷路。
美しくて神秘に満ちて、そして人に寄り添う暖かさ。

シェイクスピア・・・神の子。
ウィリアム・・・奇跡の人。
ビリー・・・マイアイコン。

この90分の講義の後、私にとってシェイクスピアは古臭いカビの生えた西欧オタクのグラビアから、一足飛びに、いとしのビリーになったのでした。

というわけで、今後いろいろ、ビリーの楽しみ方について、私の脳みそを展開していきます。

……2007年3月3日の記事を加筆訂正。

2014年1月22日水曜日

作品選び

芝居やりたい!
と誰かが思うところから作品選びが始まる。

誰がそう思うかで、道は異なる。

俳優なら作品より先に仲間を集めるかもしれない。

プロデューサーなら先に主演俳優をハントするかもしれない。
演出家を確保するかもしれない。
作家にあてがあるかもしれない。

いずれにせよ、WHEN,WHERE,WHO,WHAT,いつ、どこで、誰が、何を、を決めて初めて作品づくりはGOになる。

私の場合、演出を引き受けるからには時期WHENはクリアしている。
で、私は空間に触発されるので、上演場所WHEREをまず決める。

例えば私が劇団昴にいた頃、今は無き三百人劇場での公演を請け負ったとすると、その劇場を客席から舞台、舞台袖、とくまなく歩いてみる。
俳優の気持ちになり、観客の目線になり、自分の作ろうとしている作品の規模と予算も念頭に置きながら。

三百人劇場は、奥行きはないが間口は広かった。
袖が狭いので大掛りな引き出し装置は無理だがタッパ(天井)が高いので吊りものはOK。
ここでなら、こんな作品が面白そう、という漠然としたイメージができあがる。

劇場だけでなく、劇団の作品だから、劇団を支えてきた理念と、それについてきた観客の期待もある。
それを落胆させずに尚且新しい客層にアピールできる戯曲は?

加えて、当時の劇団での私の使命は「海外の新作を探せ」

ネットで劇評をチェックして、自分の想像力を刺激するものが網にかかったら、芝居の規模や出演人数、昴の俳優なら誰を起用したいか等の、あたりをつける。

それから、自分の前作との差別化や、劇団の年間の上演作品とのバランスで、これはいけそうだと思えるものに絞る。
そしたら、プロデューサーを説得するために、その作品がどれほどメリットがあるかを、経済的・芸術的にアピールする文章をひたすら構築するわけです。

そして採用された作品が
イギリスのサスペンス『スィートパニック』
イギリスの心理劇『フィリップの理由』
オーストラリアの喜劇『花嫁付添い人の秘密』
アイルランドの感動家族物『ドリー・ウェストのキッチン』

一方、劇場が決まっていない場合、元々、劇的な非日常空間の好きな私は劇場ではない場所を探しだす。

洋館借りきってみたいな。
  (と言って17世紀イタリア喜劇『友達と恋人と』)
プチホテルのボールルームがありますよ。  
  (と言われて18世紀イギリス喜劇『目的のために手段を選ばず』)
能楽堂もいいな。
  (と言って中世喜劇『ミンナ』)
冬ならライトアップの美しい教会堂がいいな。
  (と言って青山の教会で音楽劇『幸福な王子』『身も心も捧げた友』)
とうしてもイスラムのモスクがいいの。
  (と押し通されて音楽劇『つづきゆくものがたり』)
夏なら野外がいいな。
  とこれはまだ実現していないけれど。

最終的には、言い出しっぺと、大蔵大臣との意見が合致して、すべてがGOになるのです。

そして漸く、現実問題としての、俳優とスタッフの確保が始まり、実際の作品づくりへと動きだす。

翻訳劇の場合は、私は翻訳も担当しますから、さらに仕事が増えます。

-----2007年2月22日23:30記述。加筆訂正あり。

2014年1月20日月曜日

舞台作りの流れ

作品がお客様の前に出るまでの流れを概観します。

作品・人員・場所等決定
→稽古・道具や衣裳や音楽準備
→舞台稽古
→上演
というのが大まかな流れです。


作品決定:上演の一年半前あたりが平均的。
小さなものなら四ヶ月前という短期間も可能ですが、ミュージカルの様に大きくなると二年や三年前なんてことも。

人員決定:演出意図に従って俳優とスタッフを決めます。
スケジュール調整が主ですが、内情はMONEY!(T.T)

場所決定:ひとくちに劇場と言っても千差万別。
劇場の演技空間acting areaに合わせ、稽古場も確保。
しかし内情はMONEY!

稽古開始前に:
舞台装置や衣裳デザインを決めます。
実験的な作品や、ワークショップで作り出す作品の場合には、稽古しながら考えていくやりかたも。
しかし内情はMONEY!

台本はカットや直しを整えて、稽古初日までに俳優が十分勉強できるよう、余裕をもって発送します。
そのときに稽古予定も一緒に渡してしまいます。
歌や踊りがあるなら、それらをできるだけ早くに準備しておき、演じ手は、読み稽古よりも早くにその稽古に入ります。

稽古rehearsal:
稽古初日に全参加人員が集い、顔合わせをします。
演出プランの発表と共に装置と衣裳も発表します。
そして通し読みをして、互いの現状を把握し、さて、そこから演出でどう変わるかはお楽しみ。
稽古期間は普通の台詞劇で約5~6週間。
場面ごとの稽古をしばらく続け、徐々に繋げて流れを作っていきます。
後半では衣裳合わせもあります。

初日の数日前に「小屋入り」と言って、劇場に移動します。
舞台に装置を建て込み、照明や音響機材をセット。

それからテクニカル・リハーサルTechnical Rehearsal
これは、照明や音響と俳優の動きとのバランスやタイミングを合わせていくものです。
衣裳やメイクもチェック。
真っ暗な瞬間があっても安全に動けるかとか、楽屋から着替えが間に合うか、なんてこともチェック。

そして最後にドレス・リハーサルDress Rehearsal
衣裳・メイクすべて着けて全く本番通りに上演してみるのです。

ドレス・リハーサルと言う言葉は英語圏の言い方で、わりと最近使われ始めた様です。
私は英語圏仕込なので普通に使っていますが、一般にはドイツ・ロシア圏の「ゲネラル・プロデュクシオンGeneral Production」通称「ゲネプロ」が使われています。

このとき、映画のプレビューの様に観客を入れる場合もあります。
イギリスの国立劇場ではドレス・リハーサルが一週間ほども設定されていて、学生や職安通いの人々や高齢者に格安で公開することも。
彼等の反応を見ながら最終的に笑いや盛り上がりを初日に向けて調整していくのです。
記者や批評家が来るのはもちろん初日。
うらやましいシステムです。
当然、初日の質は高くなければいけません。

こうしてお客様には高い対価を支払っていただく、ことになってしまうわけです。
だから、質を高く、質を高く、質を高く!

------2007年2月14日18:30記述 加筆訂正あり

演出家という職業に必要なこと

私という人間は社会性が皆無でした。
今でも皆無だ!と言われますが、今以上にとことん皆無だったのです。
それがどうして、かなりの社会性を必要とする、演出家という職業について、かろうじてなんとかやっているのか。。。皆目見当がつきません。

もっとも、社会性の無い人間が、社会を映す鏡である演劇を眺めるわけですから、かえって客観的になって良いのかもしれません。
が、稽古場という現実の人間関係対応は今でも大変気を使います。気を使いすぎてパワーを失うこともあります。

が、大事なのは私の人間関係ではなく、お客様になにを伝えるかです。

戯曲(お芝居の台本になる本)を演出するにはとてもたくさんのことをこなさなくてはいけません。

その作品をどんな絵で見せたいかとか
その作品からどんな音が聞こえてきたいかとか

空想の引金は様々ですし、いろいろ思いつく順序は演出家によって違いますが、少なくとも、人が何かをしている絵の連続で、観客の心を動かさなくてはならぬという大命題は同じです。

すると、絵や音という問題以前に、どんな人物を描写するのかが一番大事になります。

そこで必要なのが人間観察。
そして彼らの生きている社会の考察。

とくに道徳と常識。
なぜならドラマの主役たちはほとんどが不道徳と非常識に関わるからです。
私がよく参考にするのは、いはゆる文豪と呼ばれる作家の作品。
明治のものもロシアのものも、心理描写と社会・生活描写が、知らない世界を教えてくれます。

このようにして、その戯曲の内面と背景を勉強して、さてどんな絵で見せようかという段になります。

時代設定をそのまま使うのか、エッセンスを取り出して象徴や抽象で展開するのか…

一般に、演出家のセンスやスタイルが最もわかりやすく人目につくのが、ここです。

が、それが頭の中にある段階までなら社会性がなくても、勉強熱心で、創作意欲と想像力があれば、大丈夫。

問題はそのあと。
これを具現化する段階です。
プロデューサーとスタッフ、俳優、といった、自分とはものの見方の異なる人達を説得しなくてはなりません。

ことに名作古典となると、それぞれが「こうあれかし」というイメージをかなり強く持っているので、刷りあわせはなかなか大変です。

腹を立てず相手を立てて、自分のイメージを上演する意義と根拠を根気よく伝えていかねばなりません。

落ち込まず、疲れを見せず、来るのが楽しいと皆が思える稽古場を作ります。

言うは安し。
10円ハゲができます。

「休みの時は何してるの?」
よく聞かれますが、稽古がなくても休みではなく、次の作品探しや翻訳、執筆が待っている演出家は多いでしょう。
遊びに行っても、場所の内装や照明や、自然の中でも木もれ日やらが全て、作品作りのための情報としてインプットされていきます。
ですから演出家としての活動は絶え間なく続くのですね。
遊びも仕事というわけです。

もっとも仕事が遊びなんですから文句は言えません。

演出家の脳みそは、こんなふうに、いつもアンテナを360度に張り巡らせて、
情報受信
→情報解析
→情報分類
→アクセス
→忍耐と笑顔を付加して利用
という具合いに活動しているのです。

きっとこれは演出家やクリエーターだけでなく、優秀なビジネスマンも、同じではないかと思います。

------2007年2月12日記述 加筆訂正あり

三輪えり花の脳みそ紹介

2007年2月に始めた、「三輪えり花の脳みそ」というブログをいま見直しています。
その時以来、知識が増えたり、演出や藝術についての考えが変化していることもありますので、加筆訂正の上、再掲いたします。

<2007年2月12日>
大学等で教えたり、ワークショップをやったり、あるいは、これまでの海外生活や、仕事関連などで三輪えり花の脳みそに保存されてきた、さまざまな雑学を、このへん(2007年2月)で少しずつ皆様と共有してみることにいたしました。

現時点で考えているテーマは1ダースちょっと。

1 シェイクスピアって?
2 チェーホフって?
3 モリエールって?
(以上、作家とその時代背景を解説します)
4 海外留学って?
5 イギリスって?
6 カナダって?
(以上、私の海外留学と働いた経験からあれやこれや。その国の演劇・アート事情について。)
7 演出って?
8 演技って?
9 自己表現って?
10 からだの使いかたって?
11 声の使いかたって?
(以上、演劇の実践に関して解説します。)
12 舞台藝術
(オペラやバレエ、ミュージカルやポップスも含めて、いろいろ雑記)
13 翻訳って?
(英→日、日→英の翻訳について)

おまけ 
美しく凛々しく
(上記8~11の項目プラス食生活とか、マナーなども)

更新は、暇なときにぽちぽちと、になるでしょうから、どうぞ、気長にお付き合いください。